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DESERT LIVINGのヒントを探る

異常事態は不良債権処理の先送りによって不良業種が保護されたせいで生じたのだから、それを速やかに処理すべきだとしている。 Mもまた、より詳細に産業を点検して同様の結果を導いている。
90年代の10年間で、全要素生産性(TFP)上昇率の高い産業、たとえば電気機械や化学、金融・保険業などで就労者構成比の変化がプラスどころかマイナスになっていて、人員が減ってしまっている。 一方サービス業などは、TFP上昇率がプラスとはいえ値はあまり高くない。
それにもかかわらず、その約10倍もの人員増加率を記録している。 さらにMは、この10年間に資金や労働が市場で流動性を低下させたことも指摘している。
こうした「供給側の原因」を説く経済学者の論文は、膨大なデータを最新の統計手法と手間暇をかけて分析し、その結果にもとづいて書かれている。 なるほどデータには、興味深いものがある。
けれども理屈の方はというと、唖然とさせられるものがある。 これらのデータが市場にかんする自分たちの想定に反すると見るや、想定が反証されたと考えるのではなく、想定通りにならない現実の方がおかしい、と駄々っ子のように述べるのだ。

これでは何を主張したとしても反証されない。 科学哲学者K・Pの言う意味では(科学の成立条件としての)反証可能性がありえず、とても社会科学とは呼べない。
これらの論文はいずれも、市場では非効率的な産業から効率的な産業へと生産要素が移転するはずだ、とみなしている。 そして生産要素が増えた産業は成長率を高めるのだと言う。
なぜそう考えるかは、論じられない。 市場とはそういうものだ、と断定されているだけなのである。
それらは、「失われた10年」の間に不振3業種から電気機械や化学、金融・保険業に労働者が移動していれば、そうした産業はもっと高い成長率を記録し、GDP成長率を押し上げたはずだと主張する。 つまり、高い生産性を記録した業種には資本も労働も不足しており、そのボトルネックのせいで潜在成長率が引き下げられた、というのである。
そしてこういう不自然なことが生じたのは不良債権処理の遅れが原因であるから、それゆえ速やかに処理すべきだ、と唱える。 そこには、生産性の高い産業では人材や資本にかんして本当に枯渇感があったのか調べてみようとか、不自然なのは自分たちの想定の方ではないのか反省してみようという姿勢が欠落している。
しかし誰もが知っているように、それらの諸産業はもっぱら血のにじむ思いでリストラを敢行し、それゆえにこそ生産性を高めることができたのである。 M電器にしても、創業以来の社の理念である終身雇用制を解体してまで損益分岐点を低下させようとした。
伊東光晴の計算によれば、損益分岐点生産額は92年度の332兆円から、04年の251兆円へと、81兆円の経費削減となった。 その急先鋒が、高TFP産業であったのだ。
またそうした産業において、企業は余裕ができれば資金を銀行に返した。 銀行の貸し渋りが不良債権処理圧力のなかで強まっていたのだから、これも当たり前である。
その結果、有力企業ほど銀行離れを進め、97年からは企業が貯蓄について黒字主体になるという(これこそがまさに)異常離れを進め、社会科学においては何らかの事実とそれらを結ぶ因果関係の解釈が扱われる。 ところがひとつの事実についても解釈にはいろいろあり、正反対のものまである。
「黒人階層の貧困」という事実を、「差別が存在する」と解釈することも、「黒人層は子供時分に努力しない」と論じることもできる。 問題は、いずれが予断を含まずさまざまな事実とより整合的であるかだろう。

ここでは、「TFPが高い分野の資本や労働が減少している」という事実について、構造改革派は「資本や労働が不足している」と考え、逆の見方では「資本や労働を切り捨てたからこそ高TFPが実現した」とみなされる。 いずれの解釈が正しいかは、効率的産業と非効率的産業の双方において、生産要素の過剰/過小のいずれが意識されたかを調べることで決着をつけるしかない。
厚生労働省の「労働経済動向調査」を参照すれば分かるように、製造業では1993年(2000年)以降04年にいたるまで、もっとも労働力について過剰感が強かった(例外は97年の1年間だけ)。 そして雇用をリストラしたからこそ、TFPが高まったのだ。
したがって、景気は構造改革「ゆえに」ではなく、「にもかかわらず」回復した、と言うべきだ。 では、景気回復は何が引き起こしたのか。
明確なのは、2001年度半ばから始まる実質輸出の増大である。 05年までの間に、日本経済は輸出依存度(輸出総額10名目GDP)を10%弱から3%強まで高めている。
とりわけアメリカ・中国への輸出増が大きく、アメリカが輸出額で最大であるのは変わりないが、そのシェアは近年、低下しつつある(01年の30.0%から03年の24.6%へ)。 もちろん、主張が反証されればそれを唱えた人は困るだろう。
ところが構造改革派は、困った存在なのは自分たちの主張ではなく現実の方だと開き直り、そうした現実をもたらした犯人が不良債権なのだと唱える。 そして不良債権の処理は資本や労働・土地を市場で流動化させるから、その流動性を押しとどめてきた制度や慣行・規制(それらが「構造」と呼ばれる)を解体しなければならない、と続けるのである。
ちなみに建設業も近年は労働の過剰感が強いが、それは90年代においてゼネコンなどが公共事業頼りの景気対策のせいで好調分野だったからだ。 生産性は低くとも、公的な需要が十分に存在したのである。

ところが世紀の転換点あたりから公共事業費の削減によって不況産業に転落したため、建築業では急に労働力が過剰と見られるようになっている。 先に見たように、製造業では90年代にリストラを徹底して行った。
その結果として損益分岐点を引き下げ、海外市場で製品の競争力を有するようになった。 それが米中への輸出を進める原動力となったのである。
つまり外需頼みの景気回復だったのであり、リストラは外需をみずからの需要へと誘導する役割を果たした。 さらに付け加えておきたいのが、株価の動きである。
日経平均は2003年4月末に7600円台まで下げた後、上昇している。 では03年5月に何があったのかと言えば、Rへの公的資金投入であった。
元相場はドルに固定されているから、円高を阻止したことは、中国への輸出を安定させることも同時に意味していた。 輸出という外部要因で総需要が拡大すれば、売り上げを伸ばした企業はやがて雇用を増やすようになる。
需要が拡大したせいで、製造業は雇用にかんする態度を一変させたのである。 したがってここ数年の景気回復と失業率の低下は、輸出主導で生じたと言うべきだ。
輸出増という需要側の好転が原因なのであって、供給側の効率化はそれに応じる条件を作ったにすぎない。 需要の好転がなければ、不良債権処理にもとづくリストラや公共事業費の削減は、内需を冷え込ませ、不況をさらに深刻化させただろう。
現在では、個人消費や設備投資の伸びが内需を支えている。 だがそれも、輸出と別途に起きたことではない。


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